スポーツ・エデュケーション概念の主な土台と支柱は、私の博士論文から育ってきた（Siedentop, 1968）。その論文の重要な相は"プレイ教育"カリキュラム理論にあった。私はこの理論の中で身体的にアクティブなプレイの文化は私達の集合的な生活にとっては基本的に重要なことであり、教育的に健全な実践を通して子供達や若者達をその文化に触れさせることは、学校の科目として体育を正当化させる上で十分であると議論した。

　プレイ教育理論は、1970年から1980年にかけて、私のテキストであるPhysical Education: Introductory Analysisの初版から第３版までを通して公布された。それは私達の分野のカリキュラム理論者に広く知られるようになり、カリキュラムに関する重要なテキストであるJewett and Bain(1985)に意義深いモデルとして紹介された。しかし、学校プログラムに影響するような形で活気を帯びるまでには至らなかった。学校のプログラムを刺激したり支えたりするような不十分に適応力のあるカリキュラム理論は消滅への運命が待っている。それは正しいことである。プレイ教育は実践をガイドするためには十分な形を持っていなかった。しかし、プレイ教育に関する私の議論をもう一度読み返してみると、私が次に取るべき歩みをその時点ではっきりとは見ていなかったものの、スポーツを前面に置いていたことが明らかである。そのテキストで、私は、"有能なテニス選手達の成長−−−実践を愛することを学んだ人々"について話をし、ある人が"ハンドボール・コートの世界を定義するルール、戦術、習慣、そして礼儀をマスターしなかったことからハンドボール・プレイヤーになれなかった"ことを明らかにした。また"テニスのプレイ・ワールドに求められる役割"について議論し、そしてそれらが他のプレイ・ワールドでの役割とどのように異なるかについて議論した。明らかにプレイ教育からスポーツ・エデュケーションへの進化であった。しかしそれは小さな一歩であった。私はスポーツ・エデュケーションについて書いてきたほとんどの書物の中で、プレイとスポーツの接点であるこの文化的思想を維持しようとしてきた。

　1970年代後半と1980年代の初頭、私が担当する博士課程の学生と私は、教員の有効性と監督（supervision）に関する一連の研究を始めた。私達は際限なく体育の授業を観察して過ごした。私達は、この経験を通して、多くの体育プログラムは効果的に指導されたときでさえ十分には面白くなく、生徒達を鼓舞するためには十分に挑戦的ではないということを信じるようになった。振り返ってみると、そのとき私はそのようには定義していなかったが、私が見始めていたことは、効果的な指導実践と想像力に富むカリキュラムとの接点に横たわっている、本当に重要な体育経験を教員が提供するためのスキルと戦術であった。

　1982年、私はオーストラリアのブリスベーンで開かれたコモンウェルス・ゲームで基調講演の一つを担当するよう招待された（Siedentop, 1982）。私がスポーツを体育の主題として見ることができるということについて初めて議論したのはここであり、スポーツ・エデュケーションの考え方を初めて示したのもここであった。プレイ教育からの接点については講演のはじめの部分にはっきりと見ることができる。

　　　第一の仮説は、正しく理解され、正しく概念化され、正しく実行されたスポ
　　　ーツは、プレイの一つの形であるということである。つまりスポーツはその
　　　本質的な意味をプレイより生みだし、そして人間の営為の中で、スポーツの
　　　明らかな重要性は、プレイの中にその起源があるとすることができる。

　私はまず、よりヒューマンで（人情があって）価値のある文化に対する貢献という基礎の上にスポーツ・エデュケーションを正当化したことを明らかにした。

　　　スポーツ・エデュケーション・モデルが基礎づけられた２つ目の仮説は、遊
　　　びの(ludic)活動の高等な形がすべての人々によって活発に追求されているよ
      うな社会は、より成熟した社会ということである。つまり、成熟したスポー
　　　ツ文化はより意義深いあり方に向けての文化の進展を意味する。

　1983年の夏、私は、オハイオ州で"スポーツ・エデュケーション・カリキュラムと指導のモデル"という夏期の研究集会を開いた。この研究集会には現場の教員達と博士課程の生徒達が混ざって参加していたが、私はここで初めてスポーツ・エデュケーションの全体としての構成や特徴、そして教授法を発表した。その時の生徒の一人が、地方の小学校の体育専門家だったChris Bellである。彼女は研究集会のモデルを持ち帰って、次の秋から自分のクラスで実行した。それは、本当に、私達の初めてのフィールド・テストであった。Chrisはまさにスポーツ・エデュケーションの最初の実践者としての名称を得るのにふさわしい人である。偶然、彼女は最初の２つのシーズンに体操とサッカーを選んだ。そして私達は異なるスポーツによってなされる面白い多様性を学んだ。それは体操のシーズンでのことだった。生徒達が最初の競技会に向けてチームで練習しているとき、私達は、初めて、生徒達の学習や練習を動機づける上でのモデルの有効性を示す、フロア運動のルーチンを見た。子供達は、床運動の競技会に向けて彼らが創作しているルーチンを練習するためにもっと時間が欲しいとChrisに願い出た。Chrisは週に２回、授業の45分前に体育館の鍵を開けるようにすることと、出席は厳密に自由意志に基づくものとすることを子供達に伝えた。スポーツ・エデュケーションを行っていた５年生と６年生の４つのクラスのうち、70人以上の生徒が特別な練習時間を利用した。最後を飾る体操の競技会がビデオテープに録画された。もともとは評価の目的であったが、子供達がそれを家に持って帰りたいと求めてきた時、私達は、それが彼らの体育経験についての興奮を高め、その興奮を目に見える形で家族と分かち合う場をもたらす力を持っていたことに気づいた。

　1985年、私はアデルフィで開かれたのAIESEP世界会議において初めてモデルの実践的な応用を発表した（Siedentop, 1987）。子供達が動いている所を見せるのは、それがスライドであれ、学者的なAIESEPの論文集の規範ではなかったので、その発表に若干不安を覚えていた。それでも私は突進していった。発表が終わったとき、フロアからの最初の質問は質問でなくコメント（批評）だった。それはアメリカ北西部の良く知られた体育指導者からのもので、"ただやらせているだけで、何も教えてないんですね"というもので、また彼は最近になって私達がやめようとしてきたすべてについて説明した。私は何人かの人達がスポーツ・エデュケーションとは何かについて悪く誤解しているかも知れないということにびっくり仰天させられた。それでも他のリアクションはポジティブなもので、少なくとも私はオハイオ州の中心から広い聴衆に向けて発生の段階からの第一のステップを踏み出したのである。

　1986年、私はワイオミング大学で１週間にわたるワークショップを開き、とても才能のある現場の教員達と大変強烈な仕事をした。悲しいことに、アメリカの教育システムの権限をすっかり分散させる性格のため、追跡調査をする方法がなく、仕事の結果を見ることができなかった。しかしワークショップの数年後、私はワイオミング州の学校でいくつかのとてもすばらしいことが起きていることを知った。同じ年に、モデルは選択的カリキュラムモデルの一つとしてPhysical Education: Teaching and Curriculum Strategies for Grades 5-12(Siedentop, Mand, & Taggart, 1986)の中に含められた。モデルはその後数年にわたって初めて国民の前にさらされることになった。

　1986年から1990年までの間、私は州や地方の会議で10回のスポーツ・エデュケーション・ワークショップを開いた。再びすばらしい反響を得たが、結果を見るまでには至らなかった。私は、オハイオ州立大学では、教員の有効性に関するプログラム的研究に絶え間なく取り組んでおり、従って誰の学位論文も、卒業論文も、教員の研究も、スポーツ・エデュケーションの有効性を検討しなかった。モデルを支持するような証拠はその時点では全く逸話的であったので、これは残念なことであった。

　折り返し地点は、1990年にニュージーランド、オタゴ大学のBevan Grantが、ニュージーランドの高校10年生（高校１年生）にスポーツ・エデュケーションを試みるという国家的試行をサポートするための助成金をHillary Commissionから受けてからである。その試みはBevan Grant とHillary CommissionのPeter Sharp が代表者となって行われたが、研究に参加した多くの教員達がしぶしぶ参加し、モデルのポテンシャルについて楽観的ではなかったにもかかわらず、大変な成功を収めた（Grant, 1992）。生徒達はスポーツ・エデュケーションを好んだ。教員達は生徒達によってもたらされた利益を認めた。そして教員達を典型的な管理の仕事から解放し、シーズン中の重要な問題のあちこちで生徒達と交流するための場を頻繁に与え、かつ生徒達がスポーツ参加についての責任を持つというやり方を評価した（Grant, 1992）。それからHillary Commissionはすばらしく教員にフレンドリーなスポーツ・エデュケーションの資料（Grant, Sharp, & Siedentop, 1992）を作り上げ、成功的な実践を学んだ教員達からの問い合わせに応じるためスタッフを増員した。Peterはちょうど２週間前、今ではニュージーランドの214の高校がモデルを使っており、Hillary Commissionは中学校でそれを使うことを検討しているということを教えてくれた。

　ニュージーランドの試みは、即座に、西オーストラリアの高校の州レベルでの試みに引き継がれた。Andrew Taggart とKen Alexanderの指導によるSport and Physical Activity Research Center(SPARC)のプロジェクトとしてである（Alexander, 1994）。試みは十分に成功し、SPARCは全国的な試行をするための基金が供給された。そしてニュージーランドでの試みと同じように、スポーツ・エデュケーションの成果に関するより多くの観察記録が教員や生徒達から得られた。オーストラリアのプロジェクトはSport Education in Physical Education Project（SEPEP）を生む原因となり、教員のためのすばらしく効果的な教材を作成し、このモデルに対する純粋な研究基盤の始まりを誘発した(Alexander, Taggart, & Luckman, 1998; Alexander, Taggart, & Thorpe, 1996; Carlson, 1995; Carlson & Hastie, 1997; Curnow & MacDonald, 1995; Hastie, 1996)。

　1993年にワシントンでAAHPERD（アメリカ健康・体育・レクリェーション・ダンス連盟）の全国大会が開かれたとき、私は、スポーツ・エデュケーションのシンポジウムを催すため、いくつかの大学と教育実践に取り組んでいる仲間の先生達を組織した。このことが翌年、教員による教員のための本であるSport Education: Quality PE Through Positive Sport Experiences(Siedentop, 1994)の出版へとつながった。モデルはより知られるようになり、今では、教員がスポーツ・エデュケーションを行う際に役立つ、フレンドリーで多様性のある教材が世界的に使われるようになってきた。

　1995年、西オーストラリアのパースで全国スポーツ・エデュケーション会議が開かれ、その年のACHPERのHealthy Life Styles Journalの夏号ではオーストラリア体育におけるスポーツ・エデュケーションについての特集が組まれた。1998年にはスポーツ・エデュケーションに関する２つのシリーズがJOPERD（体育・レクリェーション・ダンス雑誌）に掲載された。またAIESEPが再びアデルフィで開催され、私にこの回顧を行う機会を提案してくれた。1998年の11月には、イギリスのローボロー大学でスポーツ・エデュケーション会議が開催されることになっており、そこでは、学校ばかりでなく地域スポーツについても、いかにスポーツ・エデュケーションが利用できるか検討する機会を提供することになっている。

　スポーツ・エデュケーションは今、世界中で教員によるテストを受けている。教員達が自分たちのユニークな応用を加えているので、多くのバリエーションがある。1990年代には50以上のスポーツ・エデュケーションに関する記事も発行され、増え続ける多くの研究は、そのすべてが、異なるものでなく、より類似した結果を見せる傾向にある。教員と生徒はスポーツ・エデュケーションを好んでいる。スキルの低い生徒と典型的な不参加生徒（non-participating student）はスポーツ・エデュケーションから著しく重要な利益を得ているようである。教員達は、伝統的な指導をしたときよりも生徒達がいいプレイヤーになっていることを強調して報告した。生徒達がスポーツ・エデュケーションに興奮しているとき、教員達も同様に興奮した。生徒達は複数の役割を楽しんでおり、特に仲間から教えてもらうのが好きのようである。私の地方では、コロンバス女子学校の高学年の体育プログラムがすべてスポーツ・エデュケーション・モデルに再定義された。生徒達は興奮している。昨年の春の"ペアレント・ナイト（両親の夜）"には、たいていの夜を一人で過ごしたり、苦情をいいに来た何人かの親に対応したりしていた体育スタッフ達に、スポーツ・エデュケーションの中で娘達が得たすばらしい学習経験についてお礼を述べたがっている親や、モデルについてもっと知りたがっている親達が殺到した。私達の修士課程の学生の一人（Daniel Dayton, オハイオ州立大学）がこの学校でのスポーツ・エデュケーション・モデルへの移行について詳細に記録した論文を完成しようとしている。